W N T R A S A P

He who waits for winter, storing nothing

Imposed

このままじゃ……あの、今のままじゃだめってことですか? それって、何でですか?

村田沙耶香コンビニ人間』、83頁)

コンビニ人間』を一気読みした週末、異なる場所で異なる人からまるで小説の中の話題を切り抜いたような愚痴を2件聞いた。「いい歳して独身だし結婚しようとも思わないのはおかしい」といういやな多数派の価値観が、現に人を苦しめていることを実感している。Cさんの勤め先では皆が「結婚して子供をつくり育てることは素晴らしい!」という情熱で駆動しているらしく、別にそう思っていないが淡々と仕事をこなすCさんに対して、もっと情熱をもてと非難してくるらしい。なぜ非難されなくてはならないのか全然意味がわからない。Aさんの会社の独身寮には年齢制限があって、寮を出た社員には既婚者に対してのみ住宅補助が払われるそうだ。Aさんは「うちの会社は結婚していないと人間だと思われない」と言う。CさんもAさんもこの文章だってなにも既婚者全員くたばっちまえと呪っているわけではない(『コンビニ人間』の白羽さんはそうかもしれないが)。なぜそちら側からばかり圧力を掛けられ続けなければならないのか、不当ではないか、という話である。結婚出産当然という考え方が「時代遅れだ」とかそういうのはどうでもいい。価値観のアップデートなんて期待していないし、第一その言葉は嫌いだ。他所からもってきたものでアップデートする価値観なんて、価値観とよべるのだろうか。繰り返すが、なぜそちら側からばかり圧力を掛けられ続けなければならないのか、不当ではないか、ということに尽きる。誰かに対して「変われ」と言うわりにその人への責任を負う覚悟をもたないのは罪深いと思う。ある種の啓蒙活動についても(どんなにお題目が立派でも)そういうのを見るといやな気分になる。相手に変わってほしいのなら心中する覚悟であたるべきだ。誰彼構わず言っていいことではない。『少女革命ウテナ』を見ろ。話はそれからだ。